2024年7月21日に、東京駅近くのステーションコンファレンス東京にて、ピジョン奨学財団の新奨学生発表会・交流会が行われました。小児科、産科、新生児科の医師を志す学生を対象に奨学金を支給するピジョン奨学財団は、2014年に設立し、今年で10年目の節目の年を迎えました。2024年は、北海道から九州まで全国の大学医学部5年生50名が新たな奨学生として選抜されました。
新奨学生発表会は、新型コロナウイルスの影響でオンラインのみで開催した年があり、その後も会場参加とオンライン参加に分かれて開催する年が続いていましたが、今年はようやく奨学生とピジョン奨学財団の評議員・理事・選考委員が一同に集う形で開催することができました。全員が会場に集合すると、ここ数年とは会場の熱気が違いました!お互いの顔と顔を合わせてコミュニケーションを取る貴重な機会となりました。
第一部:新奨学生発表・奨学生証授与式
まずはじめに、代表理事の北澤憲政より挨拶がありました。
「暑い中、お集まりいただきありがとうございます。近年、日本の出生数は減少を続けています。人口を維持するには出生率2.07が必要だと言われていますが、2023年の全国の出生率は1.20で過去最低、東京に至っては0.99という非常に低い数字になっています。30年後には30代の人口が30%減少すると予測され、医療従事者を取り巻く環境も厳しくなると思われます。
しかし、ピジョンが『赤ちゃん誕生記念育樹キャンペーン』で37年間植樹をしている茨城県の常陸大宮市は、不妊治療に要した治療費の自己負担への助成、子育て世代への住宅取得奨励金などの施策を実施し、少しずつ若年層の流入が増えているそうです。これから子どもを支える仕事に就く皆さんも、このように子どもを育てやすい環境を作れるように努力をして欲しいと思います。皆さんのこれからの活躍に期待しています。」
続いて、評議員の仲田洋一より祝辞がありました。
「奨学生の皆さんは、多くの努力をした結果、今この場に参加していただいています。皆さんはこれから医師という仕事の入口に立つところですが、これからも努力を続け、苦しいことや大変なことが起こっても必ずや乗り越えてくれるだろうと、私たちに夢を抱かせてくれる存在です。
これからさらに赤ちゃんが減っていくことが予想され、周産期医療を志す皆さんにとっては厳しい環境になりますが、苦しいときは日本だけではなく世界に目を向けることが大切です。大きな視野を持って活躍できる医師になることを期待しています。」
次に、北澤代表理事より新奨学生50名の発表が行われ、一人ひとりの大学名と名前が読み上げられました。発表後に50人の奨学生を代表して、2人に奨学生証が授与されました。
評議員・理事・監事・選考委員より、新奨学生への期待と激励を込めたお祝いの言葉をいただきました。祝辞の一部をご紹介します。
「医療は、患者や家族が安心して受けられることが重要です。一人ひとりの安心のために、どのように伝えたら良いのか、しっかり考えられる医師になってください。」(小児科医/片山啓評議員)
「SNSのFacebookの意味を知っていますか?個人の写真と名前を掲載した名簿のことで、年度初めに大学や高校で学生同士の交流を促すために配布されているものだそうです。今、皆さんの手元にはFacebookがあります(※)。これを元に理解を深め合い、これからの交流や連携に活かして欲しいと思います。」(髙田誠評議員)
※ピジョン奨学財団の交流会では、奨学生の簡単なプロフィールと顔写真を掲載した名簿を作成し、当日配布しています。
「これから周産期医療に関わろうとしている奨学生の皆さんには、とても大きな責任があります。大人になってからの生活習慣病などの疾病リスクは、妊娠中や小児期の環境で大きく変わることがわかってきています。人の将来の健康に周産期が関わるということは、日本の経済にも影響を与えるということ。日本は厳しい状況ですが、この現状を救うためにも、周産期医療に関わる皆さんの活躍が必要です。期待しています。」(産婦人科医/福岡秀興理事)
「私には孫が5人います。6才の元気いっぱいの女の子もいるのですが、具合が悪いときに自分から熱があるというようなことは言いません。周りがなんとなく変だと気づき、かかりつけの小児科医の先生のところに連れて行って、治療をしてもらっています。つまり、小さな子どもは、小児科医を志す皆さんの存在があって初めて、元気でいることができるのです。皆さんに対する周囲の期待は高いですが、その思いに応えられるように頑張ってください。」(鈴木久衞幹事)
「学生は時間をアルバイトに割くことで、お金を得ています。奨学生の皆さんは、今後奨学金を得ることができるので、今までお金を得るために使っていた時間を、他のことに投資することができます。数年後、ピジョン奨学金がこんなことに役に立ったと思い出せるように、有意義な投資をしてください。皆さんが立派に医者の卵として、ピジョン奨学財団から旅立っていくことを応援しています。」(榎本英紀幹事)
次に、新奨学生を代表して2名から、ピジョン奨学財団の奨学生としての決意表明の挨拶がありました。
「私が小児科医を志したのは、高校生のときに妹が小児がんになり、大学病院で半年間入院生活を送ったことがきっかけです。妹も家族も、不安や恐怖に押しつぶされそうになったとき、主治医から励ましの言葉をもらったことで救われてきました。私は患者本人はもちろん、家族のメンタルケアも重要だと痛感し、小さな子どもと家族を支える医師になりたいと使命感に燃え、医学部を目指しました。今もその想いは変わらず、患者や家族が生きる希望を持つお手伝いをしたいと、さらに強く感じています。今は実習などでさまざまな経験を積んでいますが、将来の診療に役立つことを信じて頑張っています。いただいた奨学金を無駄にしないよう、これからも勉学に励みたいと思います。」(東北大学5年)
「私たちの世代は、ちょうど大学入学時に新型コロナウイルスの影響で、さまざまなつながりが断絶されました。なくなって初めて、つながりを持つことの大切さに気付かされたことを思い出します。だからこそ、今回はこのような奨学生同士のつながりを持てることに、改めて感謝しています。このつながりを糧に、学生生活を充実させ、医師を目指す毎日に邁進していきます。また、この夏に第一子が生まれる予定です。ピジョンさんとのつながりも得たので、ピジョンアイテムを活用して子育てしたいと思っています!」(京都府立大学5年)
第一部の最後には、新奨学生と役員で記念撮影を行いました。今回は会場に一同が集まることができたので、ここ数年に比べて人数が多く、並ぶまでに少し時間がかかったのは、うれしい悲鳴でした。全員笑顔で写真に収まることができました!
第二部:近況報告・交流会
第二部は、昨年から奨学生となっている6年生と、周産期医療の大先輩である医師の先生であり財団の役員の方も参加し、情報交換や交流を深めるプログラムを実施しました。まずは自己紹介を兼ねた近況報告を、参加した6年生、5年生が1人ずつ行いました。
コロナ禍も落ち着き、今年は留学の報告や予定を話してくれる奨学生が増えました!また、部活や趣味など学生生活を楽しんでいる奨学生の楽しいトークに、何度も称賛と笑いが起きていました。抜粋してご紹介します。
「小児外科医を志望しています。来春に3ヵ月、米国に留学できることになりました。アメリカで小児外科について学んできたいと思っています。」(5年)
「来年の年明けに、スウェーデンに留学します。スウェーデン語の勉強を始めました!」(5年)
「昨年に続いて今年もこの場に来られてうれしいです。4月にアメリカに留学したのですが、円安の中、奨学金にすごく助けられました。ぜひ皆さんも有効活用してください。」(6年)
「来年、マンハッタンの小児病院に3週間ほど実習に行けることになりました。マンハッタンは世界一物価が高いと言われているので、行けるかどうかドキドキしていたのですが、奨学金のおかげで何とか行けそうです!」(5年)
「産科医を目指しています。最近ピラティスを始めました。産前産後の女性の体が変わっていく悩みに寄り添えるようになりたいです。」(5年)
「旭川から去年も参加しましたが、やっぱり東京は暑いですね!3月に姉に子どもが生まれたので、おじさんになりました!」(6年)
「バスケ部に入っています。今年、1年生で上手い子が入ってきて試合に出れなくなりましたが、盛り上げ役として頑張ります!」(5年)
「陸上が趣味で、春休みに1ヵ月ケニアに走りに行きました。医学生らしく、ヘモグロビンを増やす高地トレーニングを頑張って、ロサンゼルスマラソン一般の部で2500人中3位になりました!(5年)
医学生は勉強や実習に忙しいですが、海外に積極的に出かけたり、本格的に趣味を追求したり、奨学生の皆さんがパワフルに学生生活を送っていることが伝わってきました!今後の活躍が楽しみです。
近況報告の後も歓談は続き、奨学生同士で交流を深める時間をたっぷり取ることができました。最後に業務執行理事の板倉正より閉会挨拶がありました。
「5年の新奨学生の皆さんに加え、多くの6年生も参加していただき、ありがとうございます。先ほど高田評議員からFacebookの話がありましたが、本日の交流会に集まって名前と顔を知ることができたことは、今後の大きな財産になります。ここで作った横と縦のつながりは、これから悩んだときや飛躍したいときに頼りになる存在になります。本日お集まりいただいた奨学生の皆さんの想いが実現することを祈念して、締めたいと思います。」
奨学生たちは終了予定時間になっても話し込む姿が見られ、連絡先を交換するなどこれからの糧になるネットワークが作られたようです。
ピジョン奨学財団は、周産期医療の医師を目指す学生を経済的に支援するだけでなく、志を同じくする仲間との交流の場を提供することも大切な役割と考えています。今後も定期的に顔と顔を合わせて交流する場を設け、奨学生同士のネットワークづくりを支援してまいります。お互いに切磋琢磨し、助け合いながら、一人ひとりの目指す道に邁進していくことを願っています。