2022年12月に交流会を開催しました

全員の集合写真

2022年12月11日に東京駅近くのステーションコンファレンス東京にて、ピジョン奨学財団の交流会が行われました。7月に行われた新奨学生の発表会・奨学生証授与式では学生の半数がオンライン参加でしたが、今回はオンライン参加ではなく、実際に会場で顔を合わせての交流会を開催することができました。会場には、医学部に在学中で周産期医療に携わる医師を志している5年生15名、6年生7名の奨学生と、医師としての先輩であるピジョン奨学財団理事、選考委員の2名の医師と、ピジョン奨学財団の奨学生OB/OGであり、現在初期研修医である3名にお越しいただきました。

ピジョン奨学財団の交流会は奨学生同士の横のつながりを深める場であるとともに、周産期医療の現場で活躍している医師からリアルな声を聞ける貴重な機会にもなっています。そこで今回は、第一部は医師の先輩方への質問会、第二部は奨学生同士の交流を深めるプログラムを企画しました。

第一部:奨学生OB/OGの研修医による座談会・質問会

会場の様子

質問にご回答いただいた先輩医師
笠井靖代先生
ピジョン奨学財団理事

東京医科歯科大学卒
日本赤十字社医療センター
第二産婦人科部長

東海林宏道先生
ピジョン奨学財団選考委員

順天堂大学卒
順天堂大学医学部小児科学講座
専任准教授

ピジョン奨学生OB/OG
花輪さん

東京慈恵会医科大学卒
初期研修2年目

水越さん

神戸大学卒
初期研修1年目

林さん

岐阜大学卒
初期研修1年目

質問会では、事前に先輩医師に聞きたいことについてアンケートを実施し、多く寄せられた質問や奨学生にぜひ知っておいてほしい質問を事務局でピックアップし、先輩医師に回答していただきました。その後、会場の奨学生から質問をいただきました。抜粋してご紹介します。

■初期研修について

司会:事前に集めた質問の中で多かったのが、研修についての質問でした。特に初期研修について、大変だと感じたのはどんなところですか?また逆に、楽しいこと、やりがいを感じることは?

参加者の様子

花輪医師:私の研修病院は、1ヶ月や2ヶ月単位で診療科が変わるので、最初は環境の変化に対応することが大変でした。楽しいのは、研修医同士で協力しあって診療にあたることです。同期は30人ですが、自分では気付かなかったことに気付かされたり、仲間がいるからこその楽しさを感じることができます。

水越医師:学生のうちは遅刻しても笑って済ませることができましたが、研修医とは言え仕事としてお金をもらっているので遅刻など軽はずみな行動は許されないことに、最初のうちはストレスを感じていました。しかし、16人の同期とお互いに切磋琢磨して高め合い、できることが増えていく手応えを感じられることは楽しいです。

■イメージとのギャップ

司会:学生時代に想像していた研修医生活のイメージと、実際の現場でのギャップはありましたか?

パネリストの研修医3人

林医師:悪い面でのギャップはほとんどなかったですね。同期が25人いる大きい病院で研修していますが、学生のときは人が多いと手技があまりできないイメージがあったのですが、そんなことはありませんでした。やりたいと言えばやらせてもらえます。

花輪医師:見学に行ったとき、研修医の方々がとても忙しそうにしていたので、「寝る時間もないのでは?」と思っていました。ですが、実際に働いてみると、寝る時間も勉強する時間もあります。研修医同士で休めるように融通し合っているので、想像よりは時間がありました。

笠井先生:医師になって最初の5年は、モノの考え方を身につけるのにとても大切な時期で、自分に対して投資する時間だと思います。私は1年目は大学病院ではなく外に出ましたが、学生の時に抱いていたイメージとは違っていて、このまま5年間を過ごすのはもったいないと思い、2年目に医局に戻りました。今振り返っても、忙しくても同期と切磋琢磨できる環境で過ごせた時間は、貴重だったと思います。

■診療科を選択した理由

司会:新生児科、小児科、産婦人科など、現在の診療科を選択した理由はなんですか?

パネリストの先生

東海林先生:小児科の範囲は幅広く、ひとつの科でいろいろな経験ができることが魅力でした。また、お子さんは病院から帰った後の人生がとても長く、そこに貢献できることはとてもやりがいがある仕事だと感じました。

水越医師:私はアレルギー疾患を持っていて、子どもの頃からずっと病院に通っていました。そこで出会った先生たちの姿を見て、小学生の時から医者になりたい、小児科の先生になりたい、と自然と夢見るようになりました。そこからずっとブレることなく今に至ります。

林医師:私も小児喘息で、かかりつけの先生が親身に接してくれたことが心に残り、早い時期から医師になりたい、なるなら小児科だと思っていました。医学部に入って他の科を学んでみると、総合診療的な考え方は自分に向いていると感じ、子どもの総合医である小児科に進もうと改めて決意しました。

花輪医師:私も小さい頃にお世話になった小児科の先生にあこがれて、医師を志しました。医学部に入り、改めて小児科は全身をみることができる診療科だと感じました。その中でも、小さい子どもの全身管理は難しいですがやりがいがあると感じ、今はNICUを志望しています。

笠井先生:私の時代はまだ女性の職業の選択肢が狭く、手に職を持てるという不純な動機で医学部に入りました。当時は女性向けの医療がまだ遅れていたので、産婦人科ならば自分にできることがたくさんあると思って志望しましたが、当時まだ産科に進む女性は少なくて、医局でも歓迎されないような時代でしたね。もちろん今は時代が変わり、性別に関係なく歓迎されます。これからもどんどん変わっていくと思うので、産科志望の女性が増えるとうれしいですね。

■大切にしていること

司会:医師という仕事をするにあたり、大切にしていることを教えてください。

パネリストの先生

東海林先生:小児科での直接の患者は子どもですが、保護者の方も患者と言えます。保護者の方に説明することになるので、ひとつひとつの言葉がどのように受け止められるか考えなければなりません。不安を与えないような話し方や接し方を心がけています。

笠井先生:東海林先生と同じく、必要以上に不安を与えないことです。今はインフォームドコンセントが重要視され、起こりうるリスクについて患者さんに伝えることになっています。しかし、すべての可能性を同じ重さで伝えると不安を与えてしまいます。妊婦さん含めてより良いお産をするためのチームと考えると、良い方向に進んでいくためにどのように伝えるか、とても気を遣います。

■マッチングについて

司会:もっとも多かった質問が、マッチングについてです。初期研修先の病院は、いつどのように探しましたか?決め手となったポイントはどこでしたか?

パネルディスカッション中の参加者

林医師:私は岐阜大学の出身ですが、実家がある首都圏に戻ってくることを前提に探し始めました。5年の夏〜冬にかけて見学に行き、6年の7月頃に最終決定しました。小児科志望なので小児科の規模がある程度大きく、小児科病棟があることを条件にして探し、大規模な小児科病院で研修できる制度があることが決め手となって、研修病院を決めました。

花輪先生:5年生の後半に見学に行きました。診療科が揃っている総合病院であること、小児科が充実していること、新生児科があること、教育環境がしっかりしていることなどを条件にして探しました。いろいろな病院を見学したかったのですが、コロナ禍の影響で4病院しか回れませんでした。今も制限がある病院が多いと思うのですが、オンライン説明会を実施している病院も増えているので、見学に行けないときは利用すると良いと思います。

■ワークライフバランスについて

司会:医師といえば忙しいイメージが強いですが、実際のところ仕事とプライベートの両立はどのようにしていますか?ワークライフバランスはどのような状況でしょうか?

パネリストの研修医

水越医師:プライベートが充実しているとは言いづらいですね(笑)。時間がないと言うよりも、仕事で体力を使ってしまって、休みの日は1日中寝てしまうんです。だから釣りなど外に出る趣味はどうしても制限されますね。部屋の中で気軽にできる趣味に移行している最中です(笑)。

林医師:研修する科によっては忙しくて、プライベートは寝ているだけのこともありました(笑)。ゴルフ部だったので、余裕があるときは打ちっぱなしなどの練習に行っています。あと、フルマラソンにチャレンジすることにしたので、仕事終わりに走っています。

花輪医師:研修先の病院の周りには焼肉屋と寿司屋が多いんですよ。空いている同期や後輩と一緒に行くのが楽しみですね。つまり、食べることが趣味です(笑)。

東海林先生:私の若い頃は、とても見本にはならない状況でした(笑)。しかし、今は大学院でも半数くらいは女性が入ってきているので、家庭事情に合わせて当直を減らすなど勤務体制の調整をしています。

笠井先生:読書が好きですが、長編小説を読む時間はなかなかないので、短編小説で仕事とまったく違う世界に没頭することが息抜きですね。私が若い頃は組織の考え方が今とは異なり、プライベートが後回しになってしまって、40歳で出産しました。ですが、これからの人に私と同じことをさせられません。高齢出産が増えていますが、できる限り自然妊娠、自然分娩ができる年齢で出産するほうが良いです。30代前半にはパートナーと子どもを授かってほしいですね。仕事には全力投球できなくなるかもしれませんが、だからこそ自分だけではなく仲間がいるから仕事ができることが見えてきます。自分ひとりではなく、チームで達成する喜びに考え方を転換できると良いと思います。

■学生のうちにやっておいたほうが良いこと

司会:5、6年生の奨学生たちは、学生生活も残り少なくなってきました。学生のうちにやっておいたほうが良いことはありますか?

質問する参加者

水越医師:国家試験や卒業試験の勉強をすることは大前提として(笑)、社会人になると自由な時間が極端に減るので、時間がかかること、体力を使うことを積極的にやることをおすすめします。

林医師:部活をやっている人は、ぜひ最後までやりきってほしいと思います。部活というものができる最後の機会になりますし、仕事で自己紹介をする機会は意外に多いので、その時に夢中になったエピソードがあると印象づけることができます(笑)。

花輪医師:同じ志を持っている仲間を作って欲しいです。このピジョン奨学生で知り合った仲間は、今も勉強会をしたり、意見交換をしたり、貴重なつながりになっています。仲間を見つけることができるのは学生のうちなので、今日のこの機会を利用してコミュニティをぜひ作ってください。

東海林先生:私は英語が苦手で、いろいろな場面で困っています。同じように英語に苦手意識ある人は、今のうちに触れて慣れておくことをおすすめします。医師は臨床的な経験も大事ですが、研究の時間を持って視野を広げることも大切です。研究では必ず英語が必要になりますし、英語を苦にしないと見える世界が変わってきます。私は後悔しているので(笑)、奨学生の皆さんはぜひ英語に慣れ親しんでください。

笠井先生:確かに英語は大事ですね。一方で、日本語もとても重要です。自分の言葉で誤解なく伝えること、明解でわかりやすい言葉を書くことは、医師として必要なことです。時間がある学生のうちに、読書などで日本語の良い文章に触れてください。

■周産期医療は難しい?

奨学生:周産期医療は難しい状況にある、と言われます。現状、どのような難しさがあるのか具体的に教えてください。

質問に回答するパネリストの先生

笠井先生:産科は当直もありますし、責任が重い仕事です。さらに、少子化が進み、お産が増える見通しはまったく立ちません。そういう意味で難しい状況と言えるかもしれませんね。しかし、他の科では患者さんが治らないこともありますが、産科は命の誕生を支える非常にやりがいのある仕事です。この分野で働き続けているのは、大変なことはあっても、それ以上にやりがいが大きいからです。

東海林先生:一般論として、少子化は今後も進むと考えられます。そのため、患者となる子どもが減っていくので、小児科は厳しいと言われることもあります。しかし、私がいる病院にも毎年7〜8名の小児科希望の新しい先生が来てくれますし、医局として存続が厳しいわけではありません。体力的にも精神的にも疲弊せずに働けるよう配慮しています。

■体力の限界を感じたエピソード

奨学生:体力の限界を感じたエピソードがあれば教えてください。

質問のために挙手をする参加者

東海林先生:2年目の時に大学附属病院にいたのですが、当直がとにかく多くて。土日連続の当直が月に3回もあった時は、さすがに体力の限界を感じました(笑)。でも、今思い返すと楽しい思い出です。キツくて辞めたいと思ったことは一度もありません。

笠井先生:私も当直が週に1〜2回あったのですが、当時は朝の8時半から翌日の20時半まで働くという、今では考えられない体制でしたね。その時に、眠くて眠くて仕方がない、という夢を見ました。寝ながら眠い眠いとうなされていたんですね(笑)。今はそんな勤務体制はありませんので、ご安心ください。

■奨学生への応援メッセージ

司会:最後に現場で働いている先輩方から、奨学生に応援メッセージをお願いします。

質問に回答するパネリストの先生

林医師:知識はあとから付いてくると思うので、今は視野を広げ、興味があることに積極的に関わってほしいと思います。

水越医師:明るくて積極性がある人と一緒に働きたいと思います。今の研修先は、そんな同期が多かったことも選んだ理由のひとつでした。また、志望科へのあこがれや強い気持ちは、これからも大切になってくると思うので、持ち続けてください。

花輪医師:実習では興味が持てない科を回ることもありますが、目の前の症例は一期一会です。患者さんから学べることはしっかり学んでほしいと思います。将来、皆さんと一緒に働けることを楽しみにしています。

東海林先生:社会に出て数年のうちに経験することはとても学びが多いので、貪欲に学んでほしいと思います。その一方で、今は勤務時間が制限される時代です。自分を振り返っても、心に残っていることはだいたい勤務時間外に起こっているので、何かあった時に呼んでもらえるように同僚とコミュニケーションを取るなど、さまざまな経験を積めるように心がけてください。

笠井先生:東海林先生のお話にもあったように、今は働き方改革で勤務時間がしっかり決められ、その分経験できる症例が減っています。だからこそ、ひとつひとつの症例から貪欲に吸収しようとする姿勢が大切です。また、現場に出ると周りには素晴らしい先生がたくさんいて、自分に自信をなくして不安になる時が来ると思います。成長のタイミングはそれぞれ違うので、周りに圧倒されずに「自分は自分」という気持ちを持つようにしてください。

第二部:近況報告会・グループ交流会

グループディスカッションの様子1

第二部では5〜6人のグループに分かれ、先輩医師も入っていただいて交流を深めるプログラムを実施しました。まず最初に行われた奨学生による近況報告では、卒業試験や国家試験に追われながらも残り少ない学生生活を楽しむ6年生、臨床実習や病院見学が始まった5年生が、それぞれ自己紹介とともに楽しいトークをしてくれました。抜粋してご紹介します。

  • グループディスカッションの様子2
  • グループディスカッションの様子3

「最近は病院見学をしています。広尾の日赤病院(日本赤十字社医療センター)はすごく良いなと思っていたら、日赤の先生が僕たちのグループに来てくれたのでラッキーです!顔を売りたいと思います(会場から笑いと拍手が!)」(5年)

「私の医大では、1ヶ月ごとに病院を回る実習があります。隠岐の島の病院に行き、釣りなど離島生活を楽しみました。おすすめです!」(5年)

「新たな趣味としてレザークラフトを始めました。最初は小物を作っていましたが、バッグに挑戦してみたら、めちゃくちゃ大変でビックリしました。でも、今日やっと完成して持ってきました!(自作のバッグを掲げると、拍手喝采!)」(5年)

「臨床実習で子どもの心臓手術に立ち会う機会があり、とても感動しました。これをキッカケに小児心臓外科をやりたいと思っているのですが、この場にも志望している人がいるみたいでうれしいです。情報交換をしたいと思います。」(5年)

「来年2月、別府大分毎日マラソンに出場します。毎日走っているので、ランニング仲間になってくれる人を募集しています!」(5年)

「来年は浜松の病院で研修が決まっています。東京から離れることになるので、今のうちにと食べ歩きをしています。おいしい店があれば教えてください。」(6年)

  • グループディスカッションの様子4
  • グループディスカッションの様子5

笑いと拍手に包まれた近況報告が終わると、それぞれのグループでの交流を行いました。出身地も大学もバラバラの奨学生たちですが、そこは志が同じ仲間。あっという間に打ち解けたようで、どのグループも会話が弾んでいました。特に、奨学生にとってはとても気になるマッチングについての情報交換が行われているようで、日赤病院の笠井先生、順天堂大学の東海林先生の元には、奨学生が質問しようとたくさん集まっていました。

最後には記念写真を撮影し、閉会時刻となりましたが、あちこちで話が弾んで名残惜しそうな様子がみうけられました。奨学生たちは連絡先を交換するなどして、横のつながりができたようです。新型コロナウイルスの影響によりオンラインで開催する時期が続きましたが、やはり直接会って顔を見ながら話をすると、距離がぐっと縮まります。事務局としても初めてオフラインで会うことができた奨学生も多く、今回の場を設けることができてとてもうれしく思っています。OB/OGの方からの話にもありましたが、このピジョン奨学生同士のつながりは研修医になっても貴重なネットワークとなるので、ぜひ今後も交流を深めてほしいと思うのと同時に、これからもできる範囲での開催にはなりますが、定期的に会って交流できる場を設けたいと考えています。

  • グループディスカッションの様子6
  • グループディスカッションの様子7
  • グループディスカッションの様子8
  • グループディスカッションの様子9
奨学生の集合写真