2021年7月に新奨学生発表会・奨学生証授与式を開催しました

2021年7月11日に、東京の丸の内北口ビルディングにあるフクラシア丸の内オアゾにて、ピジョン奨学財団の新奨学生発表会・奨学生証授与式が行われました。2015年第1回の奨学生募集開始し、2021年で7年目を迎えました。今年度は、小児科、産科、新生児科の医師を志す、医学部5年生50名が、新たに奨学生となりました。

例年、ピジョン奨学財団の奨学生、現役の医師らが務める財団の評議員・理事・監事・選考委員が一同に集い、授与式が行われていますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、昨年同様に半数以上の奨学生はオンライン参加となりましたが、会場とオンラインでつなぐことで、リアルタイムでお互いの顔を見ながら交流を深められる貴重な機会となりました。

第一部:新奨学生発表、奨学生証授与式

まずはじめに、代表理事の北澤憲政より挨拶がありました。

「奨学生に選ばれた皆さん、おめでとうございます。私が社長を務めるピジョンは、会社の存在意義を『この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にします』と掲げ、ママと赤ちゃんにやさしい商品を市場に送り出してきました。2020年に開設した母乳バンクの運営も順調で、母乳の供給病院は36病院となり、昨年から倍増しています。これからの時代、赤ちゃんの存在はますます重要になってきます。ママとパパが安心して赤ちゃんを産み育てることができる社会にするためにも、皆さんの活躍に期待しています。」

続いて、評議員の仲田洋一からも、奨学生を激励する挨拶がありました。

「今回の奨学生を選考するにあたり、皆さんのエントリーシートをじっくりと拝見させていただきました。『理想の医師像』について、患者や家族に寄り添い、信頼される医師になりたい、と書かれている学生が多く、非常に心強く感じました。このコロナ禍においては、今までとは違う生活を強いられ、将来も不透明ではありますが、計り知れない可能性を秘めた皆さんと共に、私たちも努力していきたいと改めて感じています。ピジョン奨学財団の奨学生に選ばれたことを良い機会と捉え、奨学生同士の横のつながりをぜひ作ってください。」

続いて、新奨学生50名の発表をおこないました。名前と大学名を読み上げられると、会場・オンラインそれぞれ参加している奨学生は手を挙げて返事をしてくれました。

発表後、評議員・理事・監事・選考委員より、新奨学生への祝辞をいただきました。会場に集まった評議員や理事だけでなく、オンライン参加の役員からも、将来への期待や励ましのメッセージがありました。祝辞の一部をご紹介します。

「新型コロナウイルスや地球温暖化など世界的な問題が頻発し、先が見えない時代だからこそ、企業や個人の存在意義が問われていると感じます。私が勤めるピジョンでは、『この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にする』ことを存在意義としています。そして、奨学生の皆さんが志す専門分野の存在意義はとても明確で、『赤ちゃんとママの命を守る』ことです。皆さんがこれから多くのことを学び、最大限に存在意義を発揮できる医師になることを期待しています。」(板倉正業務執行理事)

「この10年、周産期医療に関する論文のレベルは急激に高くなり、カバーする範囲も急拡大していると感じています。要求される勉強のレベルは相当高いですし、変化も速い分野で、皆さんが志す道は極めて厳しいものです。しかし、20代は何でもできますし、どんなことも乗り越えられる時期。目いっぱい頑張って、20代のうちに考え方のスケールを大きくしてください。」(産婦人科医/福岡秀興理事)

「周産期医療の現場では、産後ママのメンタルヘルス支援が大きなテーマとなっています。日本の女性が出産に対して不安を感じている現状を改善する必要があるのですが、そのためにはジェンダーギャップの解消など、医療分野以外の生活レベル、社会レベルでの活動が重要だと強く感じています。これからの周産期医療の未来を担う皆さんには、医療を支える社会全体に目を向ける力を身につけてほしいと願っています。」(産婦人科医/笠井靖代理事)

「この交流会の場で交流のあったピジョン奨学生から直接連絡をもらい、これまでに2人が神戸にある私の小児科クリニックで実習を行いました。コロナ禍で直接患者さんと触れ合う機会が減少している中、とても有意義な時間を過ごしてくれたようで、私としてもピジョン奨学財団に関わっている喜びを感じることができました。これからも、できることは協力したいと思っているので、ここで出会えた縁を大切に、いつでもご連絡ください。」(小児科医/片山啓評議員)

次に、新奨学生を代表して2名から、ピジョン奨学財団の奨学生としての決意表明の挨拶がありました。

「ピジョン奨学財団の母体であるピジョンのブランドプロミス『Celebrate babies the way they are(赤ちゃん一人ひとりが生まれ持った輝きを育む)』の中にある『輝き』とは、赤ちゃんや子どもたちが持つ『影響力』や『可能性』を指している、と私は感じました。実習で小児科を回ったとき、子どもたちが笑顔になると大人も笑顔になる、その影響力の大きさに気づかされました。また、子どもはどんな夢も叶えられる、大きな可能性を持っています。
影響力や可能性という『輝き』を育むことができる小児科医を目指し、これから頑張っていきたいです。」(筑波大学5年)

「私は大学を卒業し、助産師として数年勤務した後に、医大に再入学しました。ピジョン製品は助産師として働いているときから毎日使っていたので、なじみ深く愛着があります。そんな企業と奨学生としてのご縁をいただいたことを、とても嬉しく思っています。
赤ちゃんが生まれる瞬間は、何度経験しても神秘的で、大きな喜びがあります。この喜びを味わうと、医師になるならば産科医しかない、との強い思いを持ち、今まで勉強をしてきました。今後も医師として学びを続け、助産師としての資格も活かしながら、産科医として周産期医療の未来に貢献したいと思っています。」(日本医科大学5年)

第一部の最後には、モニター越しの奨学生を会場参加者が囲むようにして記念撮影を行いました。物理的には離れてはいましたが、心をひとつに、揃って記念撮影ができました。

■第二部:質問会

第二部は、ピジョン奨学生の卒業生である後期研修医と奨学生にとって医師の大先輩となるピジョン奨学財団の役員が、奨学生からの質問に回答する「先輩医師への質問会」が行われました。質問会からは6年生に加わり、本題に入る前には緊張した雰囲気が和むようにアイスブレイク等も行いました。

アイスブレイクで和んだ雰囲気の中、質問会が進んでいきました。様々な経験談に時にはユーモアも交えながら、医療現場のリアルなお話しをたくさん聞くことが出来、奨学生も熱心にメモを取りながら聞いていました。一部を抜粋してご紹介します。

<質問会に参加した医師>

笠井靖代理事:日本赤十字社医療センター 第二産婦人科部長
小林正久選考委員:東京慈恵会医科⼤学⼩児科学講座准教授NICU病棟⻑
河野智考 医師(産婦人科 後期研修医(2018年卒業生)
中川良太 医師(小児科 後期研修医(2018年卒業生)

Q:医師となって、どんなときにやりがいを感じますか?

河野医師:やはり感謝の声をかけてもらったときに、やりがいを感じます。産科なので、夜中の出産が続くとつらいときもありますが、「ありがとうございました」と言われると、本当にうれしいですね。

中川医師:子どもたちが元気になって、家に帰っていく様子を見ると、良かったな〜としみじみ感じます。また、勉強すればするほどわからないことが出てくるところも面白いですね。やればやるほどに興味が尽きないところにも、やりがいを感じます。

Q:学生のうちにやっておいたほうが良いことは?

河野医師:僕は、学生の頃にしかできないことをやっておこうと意識していたので、同じ質問を先輩に聞きまくっていました(笑)。学生は時間もありますが、まだ何も決まっていない存在だからこそ、できることがあると思います。僕自身は、あこがれの場所に行ったり、会いたい人に会ったりしていました。徐々に研修先が決まったり、診療科が決まったり、立場が固まり始めると動きにくくなることもあるので、身軽なうちに動けるだけ動くことをおすすめします。

中川医師:僕は学生のうちにもっとあれもこれもやっておけばよかった、と後悔しています(笑)。そんな僕からのアドバイスとしては、医学的知識以外のことを身につけておいたほうが良いです。学生時代に折り紙をやっていたのですが、小児科ではとても役立っています。折り紙のような医学以外の“札”をできるだけ増やしてください。

Q:どのような後輩と一緒に仕事をしたいですか?

笠井医師:「私はこう思う」と、自分の思いをぶつけてくれるとうれしいですね。自分の考えをしっかり持てる人は、壁にぶつかったときに乗り越えていける強さがあると思います。どんなに小さなことでも、ひとつひとつが大切な経験なので、軽視せずに魂を込めてやり遂げることも必要です。

小林医師:私が若い人を評価するときは「そこに愛はあるのか?」の一点だけを見ています。患者さんのことを、いかに考えているか?ということです。患者さんのことを思いやれる人は、必ず伸びます。また、チャレンジすることを恐れない人が良いですね。現場に出ると、教科書に載っていないような、想像の域を超えた患者さんに出会うことはよくあります。なんとか最適解を見つけなければならないのですが、そのためにはチャレンジする必要があります。

Q:コロナ禍における医療現場は、どのような変化がありましたか?

笠井医師:新型コロナウイルスについて、まだ何もわからなかった2020年の春先は、不安がとても大きい時期でした。初期研修医から、救急での研修は不安だと相談を受けたこともありました。そこで、初期研修医のコロナ患者に対する対応の範囲を決めたり、対応する前にはメンタル関連の科での面談を必須にしたり、指針や手順を作って、少しでも不安を減らして研修ができるように環境を整えました。

小林医師:予測できない事態への対応力が問われたと感じています。未知のウイルスだったので、予測は難しいのですが、それでもできる限り対応できるような準備をしておくことが大事だと、改めて感じました。できる限りの準備をすることが、医療対応だけでなく、スタッフの安心感にもつながると思います。

Q:最先端のIT技術を医療に取り入れる動きがありますが、ITと医療の関わりについては、どのように取り組んでいますか?

小林医師:日本は規制が多くあり、最先端技術の実用化には時間がかかる国です。しかし、海外の情報は常に敏感に察知し、日本に取り入れることはできないか?取り入れるためには何が必要か?という視点で考えることは欠かさないようにしています。IT技術はすさまじい速度で進化し、医療の分野でもできることがどんどん増えています。今後は、技術の進歩を注視し、新たな可能性を見落とさないようにするスキルが必要になってくると感じています。

Q:最近、胎児治療のニュースを見て、興味を持っています。胎児治療についてはどのように捉えていますか?

笠井医師:胎児治療は新しい分野です。日本の周産期医療が進歩し、胎児治療の分野がさらに発展することで、安心して妊娠、出産できる環境を整えていくことは、とても大切なことだと考えています。しかし、現在は出産年齢が高齢化し、体外受精児も16人に1人まで増加するなど、妊娠、出産がどんどんハイリスクになっています。その文脈の中で、胎児治療の医療技術が進んでいることにばかり目を向けることは、少し疑問があります。自然な形での妊娠、出産ができるような社会に戻していくことも必要だと考えています。

医師の先生方への質問会の後は、奨学生同士の交流の場が設けられました。会場参加者同士、オンライン参加者同士でそれぞれ数名ずつのグループを作り、自己紹介や興味のある分野の話などをきっかけに、フランクに話をして交流を深めました。最初は緊張の面持ちでしたが、そこは同じ志を持つ奨学生同士。あっという間に打ち解けて、笑い声があちこちから聞こえてきて、まるで以前からの知り合い同士のように話し込んでいる様子もみうけられました。

新型コロナウイルスの影響により、今年の新奨学生発表会も半数がオンライン参加となりましたが、ピジョン奨学財団では、周産期医療を志す医学生を奨学金で経済的に支援するだけでなく、同じ志を持つ仲間や、現場で活躍される医師の方々と奨学生の交流の場を提供することで、将来に活かせるネットワーク構築を支援をすることも大切なピジョン奨学財団の役割と考えています。同じピジョン奨学生に選ばれたことをきっかけに交流を深め、情報交換を行ったり、刺激を受け合ったりして、お互いに切磋琢磨している話を聞くと、とてもうれしく思います。

今後も、できる範囲ではありますが、定期的に交流の場を設ける予定です。奨学生同士で交流を深め、励まし合いながら、医療の現場で活躍する人材へと成長されることを願っています。