2021年12月5日に東京駅近くのフクラシア丸の内オアゾにて、ピジョン奨学財団の交流会が行われました。新型コロナウイルスの影響で、ここ数回はオンラインとオフラインを併用して開催されていた交流会でしたが、感染拡大がいっとき落ち着いたタイミングと考え、コロナ禍前と同様の、Face To Faceで話せるオフラインのみの交流会を行いました。集まったのは、医学部で将来周産期医療に携わる医師を志す5年生×名、6年生×名の奨学生です。
ピジョン奨学財団では、2015年から奨学生の募集を開始し、2021年度奨学生は第7期生となります。卒業生の中には、大学を卒業し、研修医として活躍している医師が増えてきました。そこで今回は、奨学生らが研修医として活躍している卒業生のリアルな声が聞ける機会として、座談会や質問会を企画しました。その後、奨学生同士で自己紹介や情報交換をして、交流を深めるプログラムも行いました。
第一部:ピジョン奨学財団を卒業した研修医による座談会・質問会
参加研修医中川さん(男性)横浜市立大学2018年卒 小児科 後期研修2年目
中村さん(女性)筑波大学2020年卒 産科 初期研修2年目
佐藤さん(男性)神戸大学2021年卒 小児科 初期研修1年目
阿部さん(女性)筑波大学2020年卒 産科 初期研修2年目
座談会では、事前に奨学生に研修医の先生方に聞きたいことについてアンケートを実施しました。集まった回答の中で多かった内容をテーマに、ざっくばらんなトークをしていただきました。抜粋してご紹介します。
■聞きたいこと第1位:研修先の選び方
司会:奨学生が聞きたいことの第1位は、研修先についての質問でした。選ぶときに重視したこと、見学をするときのポイントなどについて、教えてください。
佐藤医師「小児科医を志望していたので、まず小児科に強いところで探しました。その上、たくさんの症例を見たいと考え、市中病院を希望しました。また、休みやすいか、同期の仲が良いかなど、気分良く働けるかどうかは大事だと思っていたのですが、それは実際に見学に行って見たり聞いたりしないとわかりません。見学に行ったときは、そういった職場環境についても質問しました。」
阿部医師「私は性格が奥手なので、医師同士症例を取り合うようなところより、ガツガツせず落ち着いたところが良いと思って、病院の雰囲気を重視していました。また、初期研修は救急外来が勉強になると聞いていたので、なるべく救急が強いところを探しました。今の研修先は、先生方が教育熱心で、勉強しやすい環境だと感じたことが決め手でした。」
中村医師「診療科が揃っていることを重視しました。自分が担当している患者さんが別の疾患を持っていたとき、同じ病院内の他の科の先生に診てもらうことができますし、他の科にかかったことがある患者さんならカルテをたどれば経緯から学ぶことができるからです。」
中川医師「私が初期研修先を探した時期は、コロナ禍の前だったので、日本全国を回って見学に行きました。様々な病院を見ると、地域差があることがわかって良かったのですが、今はコロナでなかなか遠くの病院まで見学に行くのが難しいので残念ですね。最終的に選んだのは東北の病院でしたが、レジデント(研修医)が少ないところを探しました。特に後期研修医が多いと、どうしても上の先生方は後期研修医を優先して教えてしまうので、初期研修医を手厚くフォローすることは難しくなりますから。」
■聞きたいこと第2位:仕事とプライベートの両立
司会:第2位は、休みが取れるのか、勤務時間はどれくらいかなど、働き方に関する質問でした。仕事とプライベートはどのように両立されているのか、教えてください。
中村医師「平日は普通に勤務して、土日祝については研修医が当番制で回しています。同じ病院内でも診療科によって当番の決め方が違って、研修医同士で決めるパターンと、上の先生が決めるパターンがあります。どちらも用事がある日はあらかじめ伝えておけば外してもらえますし、直前で無理になった場合は研修医同士で融通して当番日を交換します。あと、市中病院は休日に出勤すると手当が出ます」
阿部医師「私の研修先も診療科によって違いますし、そのとき一緒に回っている同期が何人いるかによっても違いますね。同期が2〜3人いるときは、誰かがいれば良いので交代で休めますが、1人だけで休めないこともありました。」
佐藤医師「休日は誰か1人研修医がいるように、当番制になっていました。急に無理になったら交代してもらえますし、当直は上の人が決めますが、そのときも無理な日は相談すれば代えてくれます。割と自由な雰囲気で、志望している小児科のときはあまり休まず、他の科を回っているときはその分休んで良い、という感じです。」
中川医師「病院によってぜんぜん違います。東北の病院で初期研修をしたときは、東北はとにかく医師不足で、研修医でも土日に出ないと回らない状況でした。後期研修の病院は、診療科ごとにシフトが組まれて、当番の日に出れば大丈夫。私1人の経験でもこのようにまったく違うので、このポイントこそ見学のときにじっくりチェックしたほうが良いです。」
■聞きたいこと第3位:医療現場のホントのところ
司会:第3位は、研修医になって知ったこと、驚いたこと、大変なこと、やりがいなど、医療現場についての質問でした。実際に現場に出て感じたことについて教えてください。
佐藤医師「まず感じたのは、座学と現場はぜんぜん違うということ。そして、看護師さんとの連携が大事だと痛感しました。医師として看護師さんに指示をしなければいけないことに、最初は戸惑いましたね。また、患者さんからはなりたての研修医でも“お医者さん”と見られることに、緊張しました。やりがいは月並みな言葉ですが、患者さんが元気な顔で帰っていく姿を見たときに感じます。」
阿部医師「救急で診た患者さんを、入院後もそのまま担当させてもらえるので、その患者さんが徐々に良くなり、元気になることにやりがいを感じます。実際の現場で感じたことは、研修先は急性期の患者さんを主に診ているので、ご高齢の患者さんは急性期の症状が収まっても入院中にADLが下がってご家族でケアすることが難しくなり、慢性期の病院に転院されることになります。するとそこでは急性期の病院ほど手厚く診られないので、誤嚥性肺炎などを起こしてまた運ばれてきたり、病院を転々としているうちに亡くなられたり、やりきれない気持ちになることもあります。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の考え方がもっと広まったほうが良いのではなど、現場に出たからこそ、今までになかった視点で考えるようになりました。」
中村医師「ハイリスクの妊婦さんを担当したことがあったのですが、帝王切開となり大量出血が起き、出産後はICUに入ったことがありました。それなのに、たった2週間後に元気になって退院して、人間ってすごいなと感じました。小児科で染色体異常のため寝たきりのお子さんを担当したときも、座ることすら難しいと思われていたのにつかまり立ちができるようになって、医学ってすごい!と改めて感じています。大変なこともありますが、同期と励まし合いながら頑張っています。」
中川医師「初期研修ではいろいろな科を回りますが、後期研修になるとずっと同じ科にいます。外来のフォローを半年や1年などの長期間で担当させてもらえるので、少しずつ元気になっていく過程に寄り添い、退院まで見届けられることに大きなやりがいを感じます。」
■希望以外の科を回るときに、目標にしていること
奨学生:初期研修では希望以外の科も回りますが、そのときにどんなことを心がけたり、目標にしたりしていますか?
佐藤医師「小児科はすべての科を診なければならないので、言われたことは全てやろうと前向きに取り組んでいます。」
中村医師「「産科志望」と伝えていると、妊婦さんの外来が来ると同席させてもらえたりします。また、産科と他の診療科の関わりを学ぶ良い機会だと捉えています。」
阿部医師「すべて勉強になりますが、特に内科は病棟管理の基本になるので、しっかり学びたいと思っています。」
中川医師「初期研修はたったの24ヶ月。小児科はすべての科が必要となるので、無駄な時間はありません。」
■専門を決めたポイントは?
奨学生:実習や研修でいろいろな科を回ると、最初の志望から科を変える人が多いと聞きます。先生方は、他の科に興味を持ったことはありますか?周りの友人で変えた人はいますか?また、専門を決めたポイントについてもお聞きしたいです。
中川先生「最初から小児科志望でしたが、脳外科を回ったときは少し心が動きました。教育担当の先生からは、「最初の志望と同じ専門になる人は半分」と言われましたね。同期で小児科志望は10人ほどいましたが、最終的には5人でした。産婦人科志望から乳腺外科、とマイナーチェンジした人もいます。」
中村先生「私も最初から産科希望でした。産科から変わってしまった人もいますが、新たに来た人もいて、人数はそこまで変わっていない印象です。私は実習を回っているときに「医者はどの科になっても忙しいから、残業して楽しい科にすると良い」と先生からアドバイスを受けて、それならやっぱり一番楽しい産科にしようと思いました。どんなに残業になっても、お産が進んで赤ちゃんが生まれると、本当にうれしく、すべてが吹き飛びます!」
佐藤先生「私は他大学を卒業してから医大に入学しました。小児科は忙しいと聞き、年齢が少し上なので体力面で不安だったのですが、最近は働き方改革もあって環境は改善していると思います。私も「忙しくない科はないから、楽しいところに決めたほうが幸せになれる」と先生からアドバイスを受けて、それなら小児科にしようと決めました。私の周りは、最初から小児科志望だった人は変わってないですね。」
阿部先生「私もずっと変わらず産婦人科希望です。ただ、最初はスポーツ選手の無月経など婦人科領域に興味があったのですが、産科に傾いています。実際に現場に出てみると、出産という人生の中で最高にうれしい瞬間に立ち会えることは、想像以上に素晴らしいことだと実感しました。」
■初期研修のうちにやっておいたほうが良いことは?
奨学生:初期研修のときにやっておいたほうが良い習慣や勉強はありますか?
阿部先生「あるのかもしれませんが、正直言って毎日の研修をこなすことで手いっぱいです」
佐藤先生「私も手いっぱいで、しっかり論文を読んだり勉強をしたりしている人はすごいと思っています。日々の中で手を動かすチャンスがあれば、積極的に活かしていくことは心がけています。」
中村先生「手術のときに、器具を引っ張る力が足りないと言われたことがあります。それをキッカケにリングフィットやヨガをするようになったのですが、体力がついて疲れにくくなりました。体を動かす習慣は続けたいですね。」
中川先生「初期研修の東北の病院は、医師不足でとにかく忙しかったので、寝られるタイミングで寝ることを覚えました。今も役に立っています。」
第二部:交流会
第二部では、参加した奨学生同士の交流会が行われました。奨学生と研修医の先生4名を数名ずつのグループに分け、グループごとに自己紹介や興味のある分野などを話しながら交流を深めました。ほとんど全員が初対面でしたが、同じ周産期医療を志す仲間だけに、すぐに意気投合し、笑い声があちこちから聞こえ、話が弾んでいました。
交流会の途中では、卒業生である研修医の先生方、6年生と5年生の奨学生が1人ずつ簡単な自己紹介を行いました。そこでは緊張がほぐれた奨学生たちが、大学生らしい素顔の見えるトークをしてくれましたので、抜粋してご紹介します。
「久しぶりに東京に来たので、テンションが上っています!」
「地元で大好きなバレーボールのサークルを立ち上げたので、ぜひ興味のある人は参加してください!」
「子どもが2歳の誕生日を迎えました(全員から拍手が!)。ピジョングッズにはお世話になっています。特に哺乳びんは毎日使っています。」
「自粛中に自炊にハマり、チャツネを入れたらカレーがすごくおいしくなることを発見しました。ぜひ皆さんもチャツネを使ってみてください。」
「英語が好きで、医学部の勉強とは別に、現実逃避したいときに英語を勉強しています(笑)。英検1級に合格しました!」
「ポリクリが終わったので、今だけしかできないと思って金髪にしました。あと、保育士試験を受けました。無事に資格が取れました!」
「コロナが落ち着き、ようやく部活の1、2年生と関わることができるようになりました。でも、一緒にカラオケに行ったら、全然知らない曲ばかり歌うので、ジェネレーションギャップを感じました!最近の曲を練習中です。」
などなど…。
真剣な将来の話とは少し離れ、奨学生それぞれの素顔をお互い知ることが出来る時間となりました。
閉会時刻となっても、あちこちで話が弾み、名残惜しそうな様子がみうけられました。奨学生たちは連絡先を交換するなどして、横のつながりができたようです。
新型コロナウイルスの影響により、オンラインでの開催もありましたが、笑顔で交流を深める奨学生たちを見ると、やはり直接会って顔を見ながら話をすることが、一番のつながりになると感じました。今後もできる範囲での開催にはなりますが、定期的に会って交流できる場を設けたいと考えています。
奨学生の皆さんがこの日に出会った同じ志を持つ仲間とのつながりを大切に、励まし合いながら目標に向けて頑張って欲しいと願っています。